俺が死んだら開けてくれ
そう言い馬超が手紙をくれた
戦に出るようになった頃だった
それから何年
そんな馬超は、戦ではなく病で死んだ
馬超が死ぬことなど考えもしなかった、考えたくもなかった
馬岱は手紙を開けられなかった
俺が死んだら開けてくれ
こわかった
そこにある馬超の、さいごのいしがこわかった
かたく紐でまもられた、いしをあばくのがこわかった
馬超の影をどこかに見ながら開けられぬままさらに何年
自分が強くなれたら開けよう
馬岱は手紙を朝夕いつでも肌身離さず持っていた
戦の時は大切に、鎧の下、心臓のちかくにしのばせた
でもそれがよくなかった
だんだんと、赤くなってゆくのを見てはいた
見てはいたけど気づかなかった
戦で浴びた血が染み付いて、風化した
手紙は読めなくなっていた
今ではもう、馬超が伝えたかったことなど、わからなくなってしまった
ああなんだ、俺もたいがい 馬鹿だなあ
ひとり笑う、馬岱の両手で握られた
手紙の紐はさいごまで、かたく結ばれたままだった
(お前のために生きろ)
(やさしく突き放して、馬超は、馬岱に、強く生きてほしかった)